LA MAISON DU FROMAGE – Vallée de Munster

2023年4月7日、フランス・アルザス地方(Grand-Est)、 Gunsbachという小さな村にある MAISON DU FROMAGE メゾン・デュ・フロマージュを訪問した。

Gunsbachは、コルマールから電車で約20分。チーズで有名な町 Munster マンステールの東隣にあり、ヴォージュ山脈の麓に位置する。ヴォージュ山脈は、東のアルザスと西のロレーヌを隔て、ドイツ国境のライン川と並行するように南北に連なり、酪農を中心とした農業が盛んで「AOP MUNSTER マンステールチーズ」の産地として知られる。したがって、今回訪れた「MAISON DU FROMAGE メゾン・デュ・フロマージュ」の「フロマージュ」とは、当然「マンステールチーズ」のことである。

MAISON DU FROMAGEには、マンステールチーズ料理を味わえるレストランや売店があり、牛舎を併設する「Musée 博物館」では、マンステール谷の歴史やチーズの製法を紹介し、古い道具なども展示してある。

今回は、ツアーガイドと共に館内を巡り、チーズ製造のデモンストレーションや、アルザスワインとチーズの組み合わせによるテイスティングなど、しっかり1時間半、マンステールチーズの世界を満喫した。

マンステールチーズは、ウォッシュされた表皮を持ち、その「力強い香り」と「乳酸・植物や木の香りのある滑らかでマイルドな味わい」とのコントラストに特徴のあるチーズで、牛の乳からつくられる。

1969年5月21日と1986年12月29日の政令により、生産・熟成の条件や生産地を定めたAOC(Appellation dʼOrigine Contrôlée)に認定され、のちに欧州レベルのAOP(Appellation dʼOrigine Contrôlée)となった。

マンステールという名前は「Monastère モナステール=修道院」という言葉に由来する。7世紀~8世紀、ヴォージュ山脈に修道院が建てられ、伝道師たちがチーズ作りのノウハウを持ち込んだと考えらている。チーズ製造の発明は、牛乳を保存し、修道院に集まる大勢の人々を養うためだった。

マンステールの正式名称は「MUNSTER OU MUNSTER GÉROMÉ 」といい、「Munster マンステール」と「Munster-Géromé マンステール・ジェロメ」という2つのチーズ名が付いている。

それは、中世以降、「アルザス地方のマンステール周辺」と「ロレーヌ地方のGérardmerジェラールメ周辺」という、ヴォージュ山脈を挟んで同じチーズ生産地が二重に存在したことに由来する。アルプス山脈などと異なり「ヴォージュ越え」は比較的容易であったため、「東のアルザス」と「西のロレーヌ」は早くから交流があった。そうした歴史的なルーツを守り、別々の名前で長らく共存していた同じチーズは、AOC承認によってこのように呼ばれることになった。

ヴォージュ山脈の豊富な草地資源を利用して、マンステールチーズは発展してきた。

牛乳の生産地は、7つの県Départementsにまたがり、現在およそ950の生産者が関わる。乳牛は、Vosgienne種、Simmental種、Prim’Holstein種、Montbéliarde種、またはそれらの交配種のみを使用し、飼料となる秣(まぐさ)の95%以上はAOPエリア内から供給され、毎日の飼料は25%以上が牧草でなければならない。夏は標高1,000m前後の山地(Hautes-Vosges)で、冬は平地で飼育され、少なくても年間150日以上、放牧しなければならない。(ロレーヌ側の斜面では、小麦などの収穫後の畑に放牧されていたという)

牛乳からチーズへ

朝搾った牛乳を一晩冷やした前日の牛乳に混ぜ、銅の大釜やステンレス製の大きな桶で加熱し、適温(32~36℃)になったところでレンネット(凝乳酵素)を加え、固める。ナッツサイズにカットされた凝乳(カード)は円筒形の型に入れ、15時間以上自然に水を切り、何度も裏返して成形される。(Munster au cuminの製造では、凝乳にクミンシードを加える)

チーズの熟成

マンステールの風味と色合いを完成させるデリケートな工程で、表皮に存在する細菌相の生育をコントロールしなければならない。

熟成庫は、湿度90%以上、温度10℃~16℃という特定環境に保たれる。カーヴ内では「最も若いチーズ」と「最も熟成したチーズ」を隣り合わせに配置する。こうすることで、カーヴ環境内に存在する熟成に不可欠な「Ferments du rouge(Brevibacterium linens)」が若いマンステールに自然作用する。(各生産者の熟成庫には、それぞれ独自の熟成フローラが存在するという)

熟成期間の定期的なブラッシングやウォッシングによってチーズの表面は磨かれる。酸味が減少するにしたがって「Ferments du rouge」がマンステールの風味と色に作用。色調は乳白色から黄・橙・赤色へと変化し、中身はしなやかで滑らかになる。チーズの大きさによって熟成期間は異なり、小型(340g未満)のものは最低14日間、大型のものは最低21日間、熟成させる。

マンステールチーズは、「Fromageriesフロマジェリ」や「Fermiersフェルミエ」によって製造され、それ以外にも「Affineursアフィヌール」と呼ばれるチーズ熟成士が生産に関わる。

Fromageriesフロマジェリは、いくつもの牧場から集められた牛乳を加工するチーズ生産者で、現在9社ほどあり、「Munster laitier」を生産する。

Fermiersフェルミエは、牛乳の生産からからチーズの熟成まで、マンステールチーズ製造の全工程を自ら行う生産者のことで、約85軒ある。「Munster fermier」とは、彼らのつくる、無殺菌の生乳のみからつくられたマンステールチーズのこと。(2018年 マンステール生産量5,900トンのうち、760トンがフェルミエによって生産)

Affineursアフィヌールは「AOPマンステール」における、1つの職業として確立している。歴史的には熟成工程を行わない生産者が存在していた。このような生産者の「できあがったばかりのチーズ Le fromage « en blanc »」は熟成士に販売され、マンステールチーズに仕上げられていたという。ノウハウは代々受け継がれ、現在9名の熟成士が、マンステールの重要な熟成工程を担う。

MAISON DU FROMAGEでマンステールチーズを堪能したあと、Gunsbachの村から歩いてマンステールの町を訪れた。週末だったので多くの店は閉まっていたが、町の中心部の通りを一周。美味しいパン屋やお菓子屋に巡り合うなど、マンステールはなかなか「美食の街」かもしれないと思った。

もしまた来る機会があれば、時間をかけてマンステールを「街歩き」し、ヴォージュ周辺を散策したい。

2023.6.11 Ko HAYASHI