果実の成熟度を、どのように見積もればよいか?
シードル醸造用果実の収穫作業は、様々な外的要因(気候条件・収穫機械の稼働計画・工場の生産体制など)の影響を受ける。 しかし、どのような条件であっても、必然的に果実の品質(成熟)についての配慮が欠かせない。 例えば、機械によって収穫された果実は直ちに仕込むことを求められ、熟成するための保管期間を設けることに適応しない。 果実の成熟度は、より良い収穫日を決定するための有効な指針となる。
成熟管理
収穫の近づいた果実の成熟変化は、まず何よりも、各品種の特性によって大きく異なることがわかっている。 成熟レベルを算定するために、果実の落下力学は、かろうじて収穫日の決定基準として使用できるといわれる。 しかし、一本一本の樹による違いや、時々の気候要因による影響を考えると、果汁を分析した測定値の方が、果実の成熟度をより正確に把握することができる。
「糖分濃度」 計測された屈折計の数値は、果汁中の可溶性固形分の含量に相当し、その状況における糖ポテンシャルを見積もることができ、成熟度の判断において、容易に数値化できるという点で優れている。 だが、収穫付近のそれらの進行は、各品種の大きな異質性によって、信頼を損なう場面がある。また、ブラッサージュ(Brassage シードルの仕込み工程)における「成熟」の概念はとても複雑で、「アロマ」や「可溶性窒素」の進展と同様、糖度の最適値だけを成熟度の指数として用いることは難しい。
「澱粉の減少率」 果実は成熟に近づくと、果実中に存在する澱粉がゆっくりと減少し、可溶性の糖へ変化する。 したがって、果実の成熟度を推定するためには「澱粉テスト」などによって、澱粉の減少率を確認する手法が、最も信頼性が高いと考えられている。
澱粉テスト Test Amidon (ルゴルテスト Test au Lugol)
収穫計画を作成するための基準·指針となる、果実の熟成·進展を検査するテストで、赤道部分で2つに切った果実を試薬に浸し、断面の色で成熟の進行度を測ることからなる。 澱粉は、ヨウ素溶液 Solution d’Iode のもとで濃い青色に染まる特性をもち、リンゴが成熟するにしたがって、その色は中心から抜けてくる。 色の形には「環状 Type Circulaire」と「放射状 Type Radial」の2タイプあり、10段階評価されたリンゴの「澱粉減少チャート」を参照し、成熟度を判断する。
試薬 (EU推奨 1L溶液)
10g ヨウ素 Iode
40g ヨウ化カリウム Iodure de Potassium
(この溶液は、薬局で購入できるが、“Lugol”という名前で売られているものとは配合が少し異なる)
澱粉減少のタイプ
澱粉減少は、品種の反応によって3つのグループに分類できるといわれる。
1. 落下する前に、ほとんどの果実が成熟する品種 (落下期に、全ての果実の澱粉減少が終了) Jueline、Judor、Douce Moën、Douce Coëtligné (フランスではこのタイプは10%程度だと聞いた)
2. 落下をともなって成熟する品種 (澱粉減少前に最初の果実が落ち始め、澱粉減少後に最後の果実が落下) Clos Renaux、Avrolles、Petit Jaune
3. 成熟せずに落下する品種 (澱粉減少前に、全ての果実が落下) kermerrien、Fréquin Rouge、Binet Rouge (フランスでは、このタイプが多いという)
収穫予定日の推定
品種 | 澱粉テスト 日付 (50%の果実落下時) | 澱粉減少率 % (50%落下時) | 推定 収穫日 (澱粉減少率 80%) |
Kermerrien | 10/20 | 47 | 落下期間外 |
Judeline | 11/8 | 79 | 11/8 |
Clos Renaux | 10/19 | 60 | 11/15 |
Judaine | 10/25 | 89 | 10/10 |
Douce Coëtligné | 10/4 | 69 | 10/19 |
Douce Moën | 10/10 | 82 | 10/3 |
Bedan | 11/14 | 77 | 11/17 |
Petit Jaune | 10/24 | 86 | 11/15 |
Binet Rouge | 10/16 | 58 | 落下期間外 |
Juliana | 11/7 | 78 | 11/15 |
Judor | 11/11 | 85 | 10/28 |
Avrolles | 11/14 | 71 | 11/16 |
果実の落下・澱粉減少に影響を及ぼす要因
長雨は果実の自然落下を遅くするといい、落下リズムは、その年、その時期の気候条件に強く影響される一方、 澱粉減少は、それらの影響が少ないというデータがある。
また、「樹の負荷」も果実の落下リズムに影響を与える一因となり、着果量の少ない樹は、より早く自然落下が始まる。 同時に、樹の負荷は、落下期間の長短にも関連するが、その動向は品種によって異なる。 例えば、樹の負荷が大きい場合に、“Judeline”と“Bedan” では落下期間は短かくなり、逆に、“Douce Moen”や“Clos Renaux”では落下の分散化がみられる。
負荷の少ない樹では、 より着色がよく・糖度の高い果実となる傾向にあるが、そうした果実の澱粉残率はより高いことが知られている。 施肥が多ければ「潜在糖分」は高くなり、 果実の澱粉減少は遅くなる。 明らかに成熟しているように見える(色づきがよく・高糖度の果実を生産する)果樹園と、 「収穫成熟」(全ての澱粉が抜けている状況)にある果樹園は違う。
サンプルの採取方法
果実は、バランスの取れた着果量、同質の樹で採取する。
樹になっている果実から、40個のサンプルを得る 果樹列の両面に分配された20ポイントで、目線の高さの果実を2個づつ(垣根の内側と外側で各1つ)採取。果実の大きさを無視し、ランダムに採取。
地面に落下した果実から、50個のサンプルを得る 果実列に10ポイントの採取位置を割り出す。各ポイントで、環状に樹の下にある果実を5個、内側・外側、様々な場所で採取。腐敗や虫食いに関わらず、ランダムに採取。
2022.1.30 Ko HAYASHI
Photo: “la belle-iloise” LA TRINITÉ-SUR-MER 2013.2. 1932年 フランス北西部 ブルターニュ地方 キブロン Quiberonの漁港近くで創業した ラ·ベル·イロワーズ “la belle-iloise”は、 魚の「缶詰工場 Conserverie コンセルヴリ」というには、オシャレすぎる。 焼き立てのバゲットを入手した休日の昼。 食品棚の奥に隠れていたベル·イロワーズの缶詰を発見したら、シードルの栓を開けるしかない。 美味しいランチは約束されたようなものだ。