La Défécation:デフェカシオンについて

デフェカシオン Défécationとは、自然浄化によって、搾汁に浮遊する多くの粒子を取り除く 発酵前清澄 Clarification Préfermentaire 工程のことで、フランスのシードル生産地(ノルマンディー・ブルターニュ)では、一般的な手法として行われている。

この発酵前清澄工程は、歴史的に、フランスやイギリスで行われてきた。 Débourbage デブルバージュの一つであるが、ペイドージュ Pays d’Auge、コルヌアイユ Cornouaille、コトンタン Cotentin などのAOC/AOPシードルの製法に不可欠な工程で、一般的なデブルバージュよりも、はるかに多くの利点をもたらす。

デフェカシオンは、英語で “Keeving” キーヴィングといわれ、同じ工程・製法のことを指す。 キーヴィングと聞くと「甘味を残したサイダーを製造するための技術」と思われるかもしれないが、デフェカシオンの目的をそのように捉えているフランスの生産者は殆どいないのではないか。

デフェカシオン工程では、果汁中の多くの酵母を取り除き、アルコール発酵の開始を遅らせ、その力を弱める。 同時に、窒素の効きを減退させ、さらにペクチンやバクテリアを除去する。 多くの点で一般的な果実酒製法とは逆の操作になるが、これにより、発酵工程や製品の安定性が高まり、低温で長期間、ゆっくりと発酵が進むことで、シードルのアロマや風味が向上する。

プレスされた果汁は、タンクに移され、蓋をしないで放置。 3日~5日後、自然に果汁に含まれるカルシウムに反応して、ペクチンの凝固が始まる。 このゲル状の「固まり」がタンクの上に徐々に昇っていき、フィルターのように、酵母やバクテリア、カビ、ペクチン、不純物などを巻き込む。 表面には茶色の表皮が現れるため、シャポーブラン Chapeau Brun(茶色の帽子)と呼ばれる。 タンクの底にも澱は沈澱し、果汁はよりクリアになる。

シャポーブランの上昇は、果汁(成分)の「質」が良くても成功率 80〜85%といわれる。確実に良いデフェカシオンを行うために、多くの生産者は酵素(PME)とカルシウムを添加し、自然の作用を手助けする。この専用の酵素の使用はAOCの規定で認められており、これによりシャポーブランの成功率は100%となる。

また、生産規模の大きなシードル工場では、“Flottation” フロッタシオンによるデフェカシオンが行われる。 専用のタンクにて、果汁に酵素・炭酸ガス・濃縮カルシウムを供給し、強制的にシャポーブランの上昇を起こさせる。 それらはタンク上部で除去され、同時進行で 澱下げが行われる。 より速く、確実にデフェカシオンを行うことはできるが、シャポーの上昇速度が速すぎるため、清澄・果汁の品質は劣る。 この方式は、AOC/AOP コトンタンに認められている。

フランスのシードル製法における、デフェカシオンのメリット

  • 夾雑物を除去 → クリアな果汁 = オフフレーバーの抑制、フィルトラシオンが少ない
  • 酵母を除去 → FAの開始、速度が遅くなる = アロマ向上
  • バクテリアを除去 → 汚染に対するプロテクション向上
  • 窒素を除去 → FA管理・瓶内2次発酵の安定・発酵停止操作を容易にする

同じ果汁による、Défécation(右)と Débourbage(左)の比較

2022.3.24 Ko HAYASHI


Photo:Cité Corsaire SAINT-MALO 2010.12. 18世紀、サンマロ(ブルターニュ)は、 Corsaire コルセール(外国船から荷物を略奪する権利を王により与えられた、公認の海賊)の拠点だった。冬の大西洋。 強風にさらされ、大波の押し寄せるサンマロの街は、軍艦のように見える。 そして、旧市街(Intra-Muros アントラ・ミュロス)を取り囲む 全長1754mにも及ぶ城壁の上を歩きながら街を眺めると、 今でも海賊が住んでいるような錯覚を抱く。