AOC Cidre Pays d’Auge : シードル・ペイドージュ

シードル・ペイドージュとは

“Pays d’Auge” というシードルの原産地呼称は、フランス農業省の監督下にある公的行政機関 INAO(Institut national de l’origine et de la qualité 国立原産地名称研究所)によって保護・管理されている。

シードル・ペイドージュとは、その仕様書に基づき、『地理的エリア内において、承認された果樹園で収穫された特定品種の Pommes à cidre シードル用リンゴの果汁からつくられた、 無殺菌・炭酸不添加の Cidre Bouché シードルブーシェ』 のことで、 製品は次のような基準を満たしている。

  • アルコール度数が3.5%を超える
  • 総アルコール分が6%を超える(Titre alcoométrique volumique total=実在アルコール+潜在アルコール)
  • 1Lあたり20g以上の糖分量
  • 1Lあたり3g以上の二酸化炭素含有量

(残糖量を設定している点に特徴が表れる。 ペイドージュ特有の「ビタースイートな味わい」や「フルーティーなアロマ」をもったシードルであるために、糖分は不可欠な要素だと考えられる)

シードル・ペイドージュの特異性

規格通りにつくられた製品であっても、下記のような、仕様書に記載された「ペイドージュの特徴」を備えていないシードルは、検査によって不適格とされる。

  • 「繊細なアロマ」、「弱い酸味」、「エレガントなバランス」に特徴があり、 色調は Cuvage工程による果汁中のフェノール化合物の酸化に起因する「黄金色~オレンジ色」。
  • 若いうちは溌剌とした「フレッシュバターのようなアロマ」と「フルーティーな香り」が混ざり合い、 熟成にしたがい「メントール」や「植物的」な繊細なアロマが現れる。
  • 「まろやかさ」と「ほろ苦さ」のバランスがとても良く、上品で優美な味わい。
  • 繊細な泡(Bulles)で、 炭酸(Mousse)は活発だが強くはない。

(シードル・ペイドージュは、軽食やアペリティフとして楽しめ、 Viande blanche 豚·子牛·鶏肉・クリーム系の料理・Camembert de Normandie・Galette des Rois・Crêpes sucrées との相性が抜群)

シードルの特異性と原産地“Pays d’Auge”との因果関係

仕様書では、様々な規約と共に原産地と製品との関連性を示し、ペイドージュの気候条件・土壌・伝統・歴史など(いわゆるテロワール)が、シードルの味・製法の特異性と密接な関わりをもつことを説明している。 

「バランスの良い、まろやかな甘い成分」

Pays d’Augeは、定期的に十分な量の水分が供給される気候条件(特に夏の果実の成長期)ではあるが、比較的浅い土壌、粘土質による水の伝達性の低さ、また草との競合(牧草地に果樹園がある)のため、そうした条件は緩和される。 その結果、樹勢は制限され、果実の糖度を高めることに結びつく。

「酸味は少なく、わずかな苦味成分とボディ」

数世紀にわたり、この地域で栽培されてきたリンゴ品種の取捨選択の結果、ペイドージュの果樹園の大半を占めるは「Douce-Amère 甘苦」タイプを中心としたタンニンの多いフェノリックな品種(variétés phénoliques)となり、これらの品種を巧みにブレンドすることでシードルに「苦味」と「骨格」が与えられる。 同様に、シードルに酸味がとても少ないのは、この地域に「Acidulées 酸」タイプのリンゴが非常に少ないことと一致する。

「オレンジがかった黄金色」

シードルの色調は、Tours à piler (大きな石を回転させてプレスする昔の搾汁機械)を使用していた頃からの伝統的なもので、それは、非常に長い圧搾時間によって得られていた。 こうした官能的な特徴は、現代の圧搾技術を伴って行うCuvage工程によって継承される。

「Haute-tigeによる栽培方法」

ペイドージュ周辺地域で伝統的に発達してきた、同一圃場で牧畜と果樹を行なう Haute-tige オートティージュという栽培方法によって、収穫する果実の品質は最適化される。 果実の落下期、最初に落ちた(多くの場合、病害虫の被害により、品質が悪い)果実は動物が除去。 牧草のカーペットがリンゴの落下衝撃を緩和し、落下後の地面での保存を良くする。

INAOによる管理

製品の検査

「Pays d’Auge」となりうるシードルは、最短 PDM(瓶内発酵による発泡性の獲得)期間が終了した時点で、まずサンプリングされる。 また「Pays d’Auge」を名乗るシードルは、定期的な抜き取り調査の対象となり、分析、官能、視覚、味覚による検査が行われる。

果樹園の区画割り当ての申告義務

各区画の地籍、樹の本数、品種、管理方法(Haute か Basse tige)、樹間の距離、定植日付などの申告義務があり、認証された特定区画の果汁Moûtsからのみ、シードル・ペイドージュはつくられる。

生産・出荷帳簿による記録保持義務

記録には、果汁抽出手順の記録(Brassageの日付・使用品種・果汁Moûtsの比重・量・品種割合)、発酵中に施した処理や、瓶詰めの記録(日付・Cuvées キュベのブレンド・量・ロット識別様式)、出荷の記録(日・数量・アルコール度vol・ロット番号)を記載。

書類・目視調査による、主なコントロール

エリア内に果樹園があるか、各品種の割合、果樹園のカテゴリー(品種タイプ)の面積比率、果樹園の管理状況、キュベの品種割合、ボトルでの発泡などを調査。

2022.11.13 Ko HAYASHI


Photo:La Maison du Biscuit SORTSVILLE-EN-BEAUMONT 2018.2.17 ノルマンディー・コトンタン半島の北部、シェルブールから南方に30km程。風力発電の風車以外、周りに何もないような場所に La Maison du Biscuit ラ・メゾン・デュ・ビスキュイはある。 この店のお菓子は素朴だがとても美味しく、 所狭しと商品の並ぶ店内はノスタルジックで素敵。 けれども、 ノルマンディーの端っこにあるこの店へのアクセスは良くない。 そして、さらに悪いことに、一度この店を訪れると、わざわざ何度でも 「また行きたい」と思ってしまう。