旅の記録:Sheppy’s Cider Farm – Somerset UK

2019年、イギリスのサイダー生産者 Sheppy’s Cider シェピーズ・サイダーを訪れた。

シェピーズは、ロンドンから西へ約250km、イングランド南西部 SomersetサマセットのBradford-on-Toneという町にある。

創業家であるSheppyシェピー家とサイダーとの関わりは、6世代、200年以上にも渡り、サマセットで最も古い家族経営のサイダーメーカーの一つだという。

1816年 初代 John Shepsonが「Sheppyシェピー」と改名したのが、その名前の始まりとか。

戦争によりサイダー製造が中止されるなど困難な時代もあったが、5代目Richard Sheppyが 1950年に本格的なサイダーづくりを再開。2014年 農園に新しいサイダー製造設備が完成。2017年 Sheppy’s House of Cider & Fine Foodsがオープン。

現在は、6代目 David James Sheppy が “Master of Cider”として経営の舵をとる。


2019年1月、私はCider & Perry Academyでサイダー製造研修をするために渡英。その際、イギリスで最初の訪問先として予定していたのがシェピーズだった。

当初の計画では、英国到着日の夕方に催されるイベント WASSAILワッセイルに参加することが決まっており、事前にチケットも購入していた。しかし、羽田発の飛行機がキャンセル、1日遅れでの到着となり(さらにロストバゲージ)、残念ながら、年に一度のワッセイル体験のチャンスを逃すことになった。

WASSAILという名前は「be well」という意味の “waes hael”という古い言葉からきているという。古くはサクソンの時代から、1月の最も暗い時期に行われてきた祭りで、乾杯の音頭のように「drink and be healthy」という意味の “drinc hael”と叫んだことに由来するとか。

シェピーズのワッセイルは、『チャンティングchantingや踊り、伝統の習わしなどを行って、来年の豊作を願う夕べ』と説明がある。

その伝統には様々な様式があるようだが、すべてのサイダー製造者にとって重要なのは「リンゴの木を祝福すること」にあるのだという。


シェピーズの農園に着くと、まず、中央に赤い煉瓦の立派な建物 “House of Cider“が目にとまる。

そこは、昔、リンゴの搾汁に使用されていた場所だったが、現在は改装され Farm Shopファームショップ、Caféカフェ、Restaurantレストラン、Deliデリ、Cheesemongerチーズ屋として活用している。

リノベーションされ、かつてリンゴを貯蔵していたスペースにカフェやレストランがある。そこでは質の高い「英国ファームスタイル料理」を提供することに重点を置いているとのこと。同じ施設内にあるファームショップで、高品質な地元産、国内産の食材を入手できることが強み。(残念ながら、訪問時に食事をすることはできなかった)

チーズ屋は、品質の良い「ファームハウス・チーズ」や「アルチザン・チーズ」を取り揃えているが、それは独自の経営方針によるもの。

『サイダーは土地から生まれ、その風味はリンゴが育った大地や果樹園から生まれる。チーズも同様に、その複雑さはミルク・家畜・牧草地によって生み出される。どちらも、その土地、土壌、気候に依存している点で、同じ価値観を共有している』

品質を重視、環境や文化遺産を維持しようとしているチーズ製造業者と協力関係を構築してきたとのこと。その取り組みは、2代目 Jon Sheppyから続くもので、1859年 地元のチーズ生産者からバターとクリームを購入した際の領収書が、それを証明する。

ファームショップでは、同社の製品を販売するだけでなく、できるだけ地元サマセットの優れた産品も取り扱うようにしている。『地元産業を支援することは、地域全体の将来にとって重要』という理由からだ。

訪問時、ショップで数種類のサイダーを試飲した。スタッフはとても親切、フレンドリーで、フランスのシードル醸造所訪問では滅多に経験したことのなかった雰囲気が、とても嬉しい。


サマセットは、リンゴ栽培に最適な土壌・気候だといわれる。

シェピーズの果樹園、Three Bridges Farmは、面積 90acre(約36ha)。

約6haが伝統的なStandard Trees(立木)で、その内 約3.2haはオーガニック認証を受ける。そこには、樹齢100年の古いリンゴの樹が存在し、とても巨木であるとのこと。残りの約30haは Bush Trees(低木)で、1acre(約40a)あたり200本から300本を植栽。

全体として、合計約19,000本のリンゴが植えられている。

サイダーは自社農園のリンゴを原料につくられるが、地元の生産者も、彼らの収穫量 約1000トンを補足しているとのこと。

シェピーズではその時期に収穫したリンゴを搾汁するため、濃縮果汁や冷蔵保存の果実は使用しない。 『これが最も自然で環境に配慮した、上質で伝統的なサイダーの製造方法』だという。


サイダー製造施設もThree Bridges Farmにあり、その製造技術や職人技は、Sheppy家 6世代 数世紀にわたって受け継がれ、完成されてきた。

『自然に任せることを信条』とし、発酵はリンゴの皮に含まれる天然の野生酵母のみで行い、それぞれのリンゴの特徴をブレンドに活かし、高品質でバランスのとれたシードルを目指す。


会社では『持続可能性』を重要視しており、社員全員が環境保護や公害(汚染)防止に取り組んでいるという。

包装を含む廃棄物の最小化、リサイクルの促進、エネルギーと水消費の削減。そして、可能な限り健全な環境方針を持つ業社と取引きする。

農園では、排水を管理するためにWetland Ecosystem Treatment System(湿地生態系処理システム)を導入。不透水性粘土質の下層土をつくって池を設置し、自然な方法で排水を吸収、分解できるように設計。そこは野生生物の生息地にもなっており、また、大きな古いリンゴの木も、多くの昆虫、動物、鳥にとっての居場所となる。

『優先すべきことは、商業的な農業や果樹栽培を、自然にやさしいやり方と、組合わせる方法を見つけ続けること』

野生のミツバチwild beesや養蜂のミツバチhoney beesが人間生活全体に果たす役割にも注目し、農場に巣箱を設置してリンゴの受粉にも役立てている。


購入したサイダーは、DABINETT:サマセット原産のサイダーアップル Dabinettを使用した単品種サイダー。VINTAGE RESERVE CIDER:ビタースイートタイプの醸造品種 Chisel Jersey、Yarlington Mill、Tremlett’s Bitterなどをブレンドし、オークの大樽で発酵・熟成。CIDER WITH RASPBERRY:天然のラズベリー果汁をミックスしたサイダー、等。

Sheppy’s Cider Farm

Three Bridges Bradford-on-Tone TAUNTON

2024.3.7 Ko HAYASHI