Le Cidre Cotentin AOC:地理的な特徴

2016年、 シードル コトンタン “Cidre Cotentin” / “Cotentin” は、 ペイドージュ “Pays d’Auge”(1996)、コルヌアイユ “Cornouaille”(1996)、ドンフロン “Domfront” (2002 ポワレ)に次ぐ、 AOC 原産地統制名称となった。

コトンタン Cotentinは、 フランス北西部、イギリス海峡 la Mancheに突き出た半島で、ノルマンディー・マンシュ県の北半分を占める。 

半島とは、三方を海に囲まれた場所。かつては、海からやってくる、新しい文化の玄関口だったと言われる。 事実、品質の良いシードルリンゴの多くが、海を渡ってコトンタン半島に導入された。 ブルターニュも半島だが、コトンタンより、はるかに大きい。そのため、AOC コルヌアイユ “Cornouaille”(ブルターニュ)の生産エリアは半島の一部でしかない。 対し、コトンタン “Cotentin”は、ほぼ全域を対象とする。

コトンタンは、海洋性気候。 頻繁に雨が降り(年間150日以上)、雨量は多い(平均900~1000mm)。 海を吹き抜ける風が陸を通過するため、最高/最低気温の差は少ない。 冬の冷え込みは緩く、降霜(氷結)は稀。 絶えず風が吹き、時に猛烈な西風となる。

パリ盆地の石灰岩の地層で構成される北東部を除き、ほとんどは、アルモリカ山塊(片石と砂岩の堆積物、古生代の花崗岩)に属する。標高は170mを超えず、非常に穏やかな起伏で、低い台地の景色が広がる。 土壌は深く多様性に富み、砂や砂利状ではないが、水はけがとても良い。これにより、半島の強い風でリンゴの樹が根こそぎ倒壊することを回避する。

コトンタン半島では、いたるところ、背の高い樹木によって、視界の範囲は制限される。 この自然の生け垣 “Haie”によって境界線が定められ、網目状の小さな区画を形成。 これらは、高木(ブナ・トネリコ・コナラ)、低木や茂み(セイヨウサンザシ・ヒトツバエニシダ・モチノキ)、自生の草地(クローバー・ヒナゲシ)によって、ボカージュ “Bocage” と呼ばれる森林と牧草地が混在する地形を構成する。

ボカージュの垣根は、フランスの北西部(Normandie、Bretagne、Pays de la Loire)や中央部(La Marche、Bourbonnais)に多く見られる。なかでも、コトンタン半島の生け垣の密度(面積あたりのラインの長さ)は群を抜き(1haあたり200m以上)、この地域の強いアイデンティティとなっている。 “Cidre Cotentin”の果樹園は、こうしたボカージュの景色の中にあり、高密度の生け垣のおかげで、風によってリンゴが未熟な状態で落果することなく、状態の良い果実を収穫することができる。

ボカージュは、祖先伝来のアグロフォレストリー(農業と林業を組み合わせた利用法)に由来し、コトンタン半島の動植物に多くの恩恵をもたらす。 風速の減少(30-50%)、 温度の上昇(1-2°C)、 蒸発の減少(20-30%)、 作物の収量や家畜生産の改善、 植物の受粉、 建物や家屋の保護。 森林と開放環境の間は、非常に多様性に富んだ 野生動植物の生態系(Faune・Flore)をつくりだす。 

シードル コトンタン “Cidre Cotentin”は、その地理的特異性を仕様書 Cahier des charges de l’appellation d’origine “Cidre Cotentin” / “Cotentin” に記載することで、 この地域の自然環境を保護・維持する役割も担う。

2021.7.11 Ko HAYASHI


Photo:La Route du Cidre du Cru de Cambremer PAYS D’AUGE 2013.2. 「裏道、抜け道」は、あまり良い意味で使われない気がする。 『本道、本筋からはずれること』 『規則や責任を逃れるための手段』

シードル街道の抜け道は、どこへ通じているのだろうか? 私有地と分かっていても、通り抜けてみたくなる。